14780.jpg
「お寺のトイレ撤去したのに」 ガイドブック記載で来訪者やまず困惑する住職「マナーのあり方考えて」 出版社は謝罪
2023年05月12日 19時34分

ハイキングルートに設定されている兵庫県西宮市の「鷲林寺」では、檀信徒のためのトイレがハイカーによって40年以上にわたり汚されてきたことから、やむなく2022年に取り壊された。

それでもいまだにトイレ利用をもとめる人が後をたたない中で、旅行やハイキングのガイドブックが寺を「トイレ利用可」として紹介していることがわかった。

住職の藤原栄善さんがツイッターでその経緯を発信すると大きく話題になっただけでなく、出版社が寺に「確認のないまま掲載し、迷惑をかけた」として謝罪する事態に。藤原さんは取材に、トイレ利用と管理のあり方について考えるべきタイミングではないかと語る。(編集部・塚田賢慎)

ハイキングルートに設定されている兵庫県西宮市の「鷲林寺」では、檀信徒のためのトイレがハイカーによって40年以上にわたり汚されてきたことから、やむなく2022年に取り壊された。

それでもいまだにトイレ利用をもとめる人が後をたたない中で、旅行やハイキングのガイドブックが寺を「トイレ利用可」として紹介していることがわかった。

住職の藤原栄善さんがツイッターでその経緯を発信すると大きく話題になっただけでなく、出版社が寺に「確認のないまま掲載し、迷惑をかけた」として謝罪する事態に。藤原さんは取材に、トイレ利用と管理のあり方について考えるべきタイミングではないかと語る。(編集部・塚田賢慎)

⚫️40年間、無償で開放したトイレをやむなく撤去

鷲林寺では、寺や墓参りする人のために作った境内のトイレが、男女用ともに汚される事態が続いた。利用者の9割以上がハイカー。六甲山のハイキングコースの入り口として知られ、一部のハイカーたちのマナーのひどさが指摘された。

住職になってから40年間。藤原さんは誰かわからない人が汚したトイレを掃除し続けたという。汚してもいいから拭いていってほしいと思いながら、トイレットペーパーの備品を持って行かれても、冬場に水を止めた蛇口をバールで壊されても、掃除を続けた。

見かねた檀家が「綺麗なトイレにすれば汚されない」と新しくトイレを寄進したものの、心ないハイカーの行動は変わらず、昨年11月にやむなくトイレを取り壊した。

「鷲林寺のトイレが汚い」というSNSへの書き込みを目にしたことも、その決断に影響した。親切でやっていることが、寺のネガティブな評判に影響するのであれば、続けるのにも限界がある。

「寄贈するので公衆トイレとしての管理を西宮市にお願いしたのですが、叶いませんでした。『有料にすれば?』という意見もありますが、駐車場経営など宗教活動に関係ないものは収益事業として課税対象になってしまう事情もあり、なかなか難しい。だから多くの寺のトイレは無料なんですよ」

こうした苦渋の決断を藤原さんがTwitterで発信したところ、多くの意見が寄せられ、複数のメディアも取材に訪れた。

⚫️「トイレないわけないやろ!」罵声浴びせられ…

それから半年経ってなお、トイレの貸し出しをもとめる人はひきもきらないという。トイレはないと断られたハイカーが「トイレないわけないやろ!」と寺務所の人間に罵声を浴びせることもあったそうだ。

ゴールデンウィーク直前の4月27日も、2人組の女性が「もう限界だ。我慢ができない」と寺にやってきた。

「このご婦人から『本に載ってるのに』とえらい怒られました。それで見せてくれたのがガイドブックでした」

六甲山エリアを紹介したガイドブック『るるぶ六甲山有馬温泉』(JTBパブリッシング)が「鷲林寺」にトイレを意味する「WC」マークをつけて紹介していた。

最新号だが、発行は2018年3月とのこと。確認や許可のないまま掲載された情報を見た旅行者やハイカーが寺にトイレを借りに来る理由がわかった。

SNSのフォロワーから、別の出版社のガイドブックでも紹介されていると指摘されたことから、藤原さんはそれぞれの出版社に問い合わせた。

⚫️「るるぶ」を作るJTBパブリッシングなど出版社の対応

藤原さんによると、連絡した1社からは、掲載されていたガイドブックがかなり古いものだったこともあり、在庫の残る書店からの撤去に動くと説明されたという。また、現地調査時に寺側に確認をとらなかったことについても謝罪を受けたそうだ。

JTBパブリッシングも公式サイトに『るるぶ六甲山有馬温泉』の訂正情報を出した。

画像タイトル 『るるぶ』の最初の訂正内容(5月9日付)、公式サイトから

5月9日に出たシンプルな訂正は、寺の都合だけで使えなくなったと受けとられかねない内容だったこともあり、11日になると事態の経緯や謝罪も含めたものに改められた。

画像タイトル 『るるぶ』の再訂正内容(5月11日付)、公式サイトから

該当の『るるぶ』を作ったJTBパブリッシング西日本支社の編集部が5月12日、弁護士ドットコムニュースの取材に答えた。

『るるぶ』では、トイレの情報を掲載する際は「観光スポット」として紹介する施設などには掲載確認をとるが、鷲林寺は「観光(ハイキング)ルート上でのスポット」だったため、確認しなかったという。

2018年号が最新版ということで、およそ5年にわたり、トイレ情報が掲載されたことになる。その間、鷲林寺のトイレ問題は把握していなかったそうだ。

なお、電子書籍の『るるぶ』から鷲林寺のトイレマークを削れるか、社内で検討中だという。

⚫️コンビニ業界からも共感の声「私たちは公衆トイレじゃない」

藤原さんはこう話す。

「せっかく現地まで取材に来たのであれば、寺務所に一言だけ確認してもらえば済んだことかもしれません。ですが、私のSNSへの発信や直接の問い合わせは、特定の出版社を責めたいからではなく、みんなに公共のトイレのあり方を考えるきっかけにしてもらいたいからです」

山を愛する人の気持ちも、ハイキングが好きな人の気持ちも理解している。彼らにとって、鷲林寺のあるエリアにトイレがなければ大変困ってしまうこともわかっている。だからこそ、40年間、嫌な思いをしてもハイカーに開放した。

「ここにあったトイレは絶対に必要なものです。でも、あまりにマナーがひどい。だから、廃止までには悩んだし、廃止してからもきつい気持ちになりました」

寺が公共性の高い施設とはいえ、その「絶対に必要なもの」であるトイレの負担を無償で担うことの是非は問われるべきだろう。

だから、西宮市にも寄贈を持ちかけたし、市ができないなら、県が管理してほしいという気持ちも持っている。

2007年に新しく建て替えられた寺のトイレは、西宮市の「都市景観賞」を受けた。紹介した市の公式サイトには、今でも「参詣者だけでなくハイカーなど一般の人々にも利用できるよう配慮されています」と書かれている。

「市の説明もそもそも間違っているんですよ」と藤原さんは言う。

昨年11月に、トイレの取り壊しを発表した際、「私たちも悩んでいる」と寺にメッセージを寄せたのは、コンビニで働く人たちだった。コンビニもまた、社会インフラとしてトイレの開放を期待され、その管理のあり方が問題になっている。

「コンビニだって公衆トイレ扱いされていて、私は同じ問題だと受け止めています。多くの人に公共性の高いトイレの管理のあり方を考えてほしいです。そして、そもそも、人の物も自分の物も大切に使う道徳心やマナーがあったはずです」

⚫️出版社への「トイレ」クレームはバーベキュー場からも

取材に応じた『るるぶ』編集部も、民間施設の「公衆トイレ化」は問題だと認識していないわけではない。

今回のように、トイレ表記をめぐって寺から問い合わせを受けたのは初めてのケースだった。しかし、山に関する図書を扱う別の編集部には、山のふもとにあるバーベキュー場から「トイレの使い方が悪いので、表記しないでほしい」などの問い合わせが昨年ころから届き出したという。

そこで、るるぶでも今後はトイレ情報を紹介する際には注意を払っていく考えだ。

「特にハイキングについて紹介する場合、どこにトイレがあるかが重要なため、できればトイレ情報は掲載したい。市が管理している公衆トイレであれば掲載は続けていく。しかし、ハイカーの質の問題もあり、迷惑をかけるわけにはいかない」(『るるぶ』編集部)。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る