16958.jpg
米国で研究が進むクローン技術を使った「ヒトES細胞」 日本でも作成できる?
2013年07月08日 12時00分

米オレゴン健康科学大の研究チームがこのほど、クローン技術を使って、ヒトの様々な細胞に変化可能な胚性幹細胞(ES細胞)の開発に成功したと発表した。

報道によると、研究チームは9人の女性から122個の卵子の提供を受けて実験。卵子から核を取り除いた後、別人の皮膚細胞の核を移植して培養した結果、6個のES細胞作成に成功した。クローン技術でヒトのES細胞を作成したのは世界初だという。

京都大学の山中伸弥教授が作成した人工多能性幹細胞(iPS細胞)と違い、クローン技術によるES細胞作成にはヒトの卵子提供が必要。また、倫理的にもクローン人間作成に繋がるとして、日本での研究は「クローン技術規制法」によって規制されている。

オレゴン健康科学大の研究チームは、現在の手法でヒトのES細胞を胎内に戻しても、クローン人間はできないと分析しているが・・・・。なぜ米国で許されている研究が、日本では規制されているのか。そもそも、クローン人間の作成はどうして問題なのか。諏訪雅顕弁護士に聞いた。

●クローン人間が簡単に作られるようになると、人としての尊厳が相対的に低下しかねない

「クローン人間の作成が禁止され、研究も厳しく規制されている理由は、それが人間の生命倫理と直結する問題だからです。クローン技術規制法は、『特定の人と同一の遺伝子構造を有する人(人クローン個体)』や『人と動物のどちらなのか明らかでない個体(交雑個体)』を作り出すことが、人の生命や身体の安全確保、社会秩序に重大な影響を与える可能性を指摘しています」

――生命倫理とは?

「私見ですが、クローン人間の作成が許されない理由については、生命の尊厳という視点から考える必要があると考えます。生命が尊重される理由の一つには、生命の創造が難しいこともあるでしょう。

受精から成育まで、そのプロセスのひとつひとつが奇跡的な、生命の神秘と言えます。また、私たちの命は、多くの愛情によって形成・維持されています。こういったことが『人としての尊厳』の源になっているのです」

――具体的にはどんな影響が?

「もし、クローン人間が簡単に作れるようになると、こういった尊厳は失われ、人が生まれながらにしてもつ権利の価値も相対的に低下することになりかねません。生命を軽視し、人の価値が不平等な社会は、人類が目指すべき『幸福な社会』とは言いがたいですね。

また、クローン人間を作成する時に、様々な弊害が生ずるおそれもあります。人類がコントロールできない生物を創り出してしまったり、固体種を滅亡させてしまう危険性もあります。人間は科学万能主義を盲信してはいけないし、科学は自然に対して常に謙虚でなければならないと思います」

――いっぽうで日本でも「iPS細胞」の研究は盛んなようだが?

「iPS細胞の作成には卵子が不要です。クローン技術でES細胞を作り出すには未受精の卵子が必要で、卵子を取得する上で、女性に苦痛や不利益(損失)を与えてしまいます。また、単に機械的に卵子だけを提供させるといったことから、提供者がどういった人たちになるかの点も含め、人道上の問題も発生しやすいのです。山中教授らの研究は、こういった観点からも画期的だったと言えるでしょう。もちろん、この研究においても、生命倫理(法理)からの検証は常に必要になると思います」

(弁護士ドットコムニュース)

米オレゴン健康科学大の研究チームがこのほど、クローン技術を使って、ヒトの様々な細胞に変化可能な胚性幹細胞(ES細胞)の開発に成功したと発表した。

報道によると、研究チームは9人の女性から122個の卵子の提供を受けて実験。卵子から核を取り除いた後、別人の皮膚細胞の核を移植して培養した結果、6個のES細胞作成に成功した。クローン技術でヒトのES細胞を作成したのは世界初だという。

京都大学の山中伸弥教授が作成した人工多能性幹細胞(iPS細胞)と違い、クローン技術によるES細胞作成にはヒトの卵子提供が必要。また、倫理的にもクローン人間作成に繋がるとして、日本での研究は「クローン技術規制法」によって規制されている。

オレゴン健康科学大の研究チームは、現在の手法でヒトのES細胞を胎内に戻しても、クローン人間はできないと分析しているが・・・・。なぜ米国で許されている研究が、日本では規制されているのか。そもそも、クローン人間の作成はどうして問題なのか。諏訪雅顕弁護士に聞いた。

●クローン人間が簡単に作られるようになると、人としての尊厳が相対的に低下しかねない

「クローン人間の作成が禁止され、研究も厳しく規制されている理由は、それが人間の生命倫理と直結する問題だからです。クローン技術規制法は、『特定の人と同一の遺伝子構造を有する人(人クローン個体)』や『人と動物のどちらなのか明らかでない個体(交雑個体)』を作り出すことが、人の生命や身体の安全確保、社会秩序に重大な影響を与える可能性を指摘しています」

――生命倫理とは?

「私見ですが、クローン人間の作成が許されない理由については、生命の尊厳という視点から考える必要があると考えます。生命が尊重される理由の一つには、生命の創造が難しいこともあるでしょう。

受精から成育まで、そのプロセスのひとつひとつが奇跡的な、生命の神秘と言えます。また、私たちの命は、多くの愛情によって形成・維持されています。こういったことが『人としての尊厳』の源になっているのです」

――具体的にはどんな影響が?

「もし、クローン人間が簡単に作れるようになると、こういった尊厳は失われ、人が生まれながらにしてもつ権利の価値も相対的に低下することになりかねません。生命を軽視し、人の価値が不平等な社会は、人類が目指すべき『幸福な社会』とは言いがたいですね。

また、クローン人間を作成する時に、様々な弊害が生ずるおそれもあります。人類がコントロールできない生物を創り出してしまったり、固体種を滅亡させてしまう危険性もあります。人間は科学万能主義を盲信してはいけないし、科学は自然に対して常に謙虚でなければならないと思います」

――いっぽうで日本でも「iPS細胞」の研究は盛んなようだが?

「iPS細胞の作成には卵子が不要です。クローン技術でES細胞を作り出すには未受精の卵子が必要で、卵子を取得する上で、女性に苦痛や不利益(損失)を与えてしまいます。また、単に機械的に卵子だけを提供させるといったことから、提供者がどういった人たちになるかの点も含め、人道上の問題も発生しやすいのです。山中教授らの研究は、こういった観点からも画期的だったと言えるでしょう。もちろん、この研究においても、生命倫理(法理)からの検証は常に必要になると思います」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る