モデルでタレントの平子理沙さんが、「整形」を指摘する声が寄せられているとして、自身のインスタグラムを通じて「本当にやってない」と苦言を述べた。
「唇にヒアルロン酸してる」「目頭を切開してる」などのコメントが届くと明かし、「本当にムカついてます」などと怒りをあらわにして否定した。
「わたしのInstagramでやってない事で誹謗中傷を書き込んできたら、消すし、ブロックします」(7月21日の投稿)
自らへの整形の指摘について事実無根の誹謗中傷だと捉えている平子さんだが、こうした投稿を名誉毀損だとして開示請求など法的措置をとれるだろうか。また、投稿者側はどのような反論を主張すると考えられるか。インターネットの問題に詳しい櫻町直樹弁護士に聞いた。
●名誉毀損は成立する可能性が高い
——平子さんのインスタグラムのアカウントの投稿に「唇にヒアルロン酸してる」「目頭を切開している」など整形していることをコメントで指摘すれば、法的に名誉毀損が成立するでしょうか。
まずは名誉毀損が成立するかどうか検討していきます。
名誉毀損は、「公然と事実を摘示(または意見・論評を表明)し、人の社会的評価を低下させた」場合に成立します。
本件では、以下のように整理できます。
インスタグラムのコメント欄は不特定多数の人が閲覧できるため、「公然」の要件を満たします。
「唇にヒアルロン酸をしている」「目頭を切開している」といった指摘は、具体的な行為を指しており、「事実の摘示」と評価されるでしょう。
そして、最も重要な争点になるのが「社会的評価の低下」です。
近年、整形の価値観は変化し、自ら公表する人も増えています。しかし、2年前には、たとえば「顔を整形しすぎて」という表現について、名誉毀損にあたると判断した判例があります(東京地裁令和5年5月29日判決)。
判決では、この表現の意味内容を「整形手術を複数回受けたことがある、あるいは容貌を大きく変えるような整形手術を受けたことがあるとの事実を摘示するもの」としました。
その上で、「美容整形手術を含む整形手術については、現代社会において興味関心を抱く者が多くなっているとしても、批判的あるいは消極的評価を抱く者が一定数いることも否定できないと考えられる」から、「その社会的評価を低下させる」とし、名誉毀損にあたると判断したのです。
平子さんのように、「美しさ」が重要な評価要素であるファッションモデルとして活動している方にとって、「整形している」という根拠のない指摘は、職業上のイメージや評価に悪影響を及ぼし、社会的評価を低下させると判断される可能性は十分にあるといえるでしょう。
●プライバシー侵害も成立する可能性がある
——プライバシー侵害が成立する可能性は考えられるでしょうか。
整形について指摘することは、他人に知られたくない事柄を本人の承諾なく公表したということで、「プライバシー侵害」にあたる可能性があります。
たとえば、整形の指摘をめぐってプライバシー侵害の成立を認めた判例もあります(東京地裁令和3年7月16日判決)。
この裁判では、「顔いじりまくり」「努力してあんだけ綺麗になれたのに整形とかブスとかゆうのかわいそう」との表現が問題になりました。
判決はまず「原告が整形をしているということは、一般人に私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事実といえる」としました。
その上で、裁判所は次のような考えを示しています。
「一般に、整形も含め身体に対する侵襲を伴う施術を受けた事実は、自身の周囲の者以外の第三者にあまり知られたくないものと考えられる。・・・整形手術については、否定的な意見も少なからず存在し、何らかの理由により生来の容ぼうを隠そうとする意図の存在をうかがわせる面もある」
「これらの点に鑑みると、整形は、一般人の感受性を基準にして原告の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと思われることがらに当たるものと考えられる。そして、原告は、整形をしておらず、したがって、原告が整形をしているということは、一般人に知られていない。なお、(問題の表現)が示す原告が整形をしているという事実は、真実に反するものであるが、上記のとおり同事実が一般人に私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事実である以上、投稿をもってプライバシー権の侵害として捉えることができる」
こうしてプライバシー侵害の成立を認めたのです。
●実際に法的措置をとった場合に予想されるリアルな展開
——平子さんは問題のコメントを「誹謗中傷」ととらえ、ブロックや削除すると言っています。仮に投稿者に賠償などを求めるため発信者情報開示請求の手続きなどを取った場合、投稿者側からどんな反論があると考えられますか。
平子さん側が、「名誉毀損」を理由として発信者情報開示請求を行った場合、投稿者からは主に「社会的評価の低下は認められない」との反論が想定されます。
たとえば、「現代において整形はカジュアルなものとして浸透しており、整形しているという指摘は、個人の社会的評価を低下させるものではない」と反論することが考えられます。
あるいは、ファッションモデルとして活動しているのだから、その容姿に関する表現は一定程度甘受すべき(いわゆる「受忍限度論」)という反論も加わる可能性があります。
しかし、上で紹介した東京地裁令和5年5月29日判決は、被告(投稿者)からの「顔の整形手術が特異とはいえない社会の風潮を踏まえれば、このような事実の摘示が不法行為を構成するほどに原告の社会的評価を低下させるものともいえない」という反論が退けられ、名誉毀損の成立が認定されています。
——とはいえ、最近では、インフルエンサーや若者を中心として、整形したことを発信する人も現れるなど、整形がカジュアルなものとして浸透してきたようにも思えます。こうした事情を踏まえれば、賠償額への影響なども考えられるでしょうか。
このような社会的な変化が、整形に関する誹謗中傷に対する損害賠償額(慰謝料)の算定に影響を与えることはあり得ると思います。
すなわち、「整形している」と第三者から指摘されることが、かつてほど大きな不名誉とは受け止められなくなっていると裁判所が考えた場合、「社会的評価の低下は大きいとはいえない」として、慰謝料が低めに算定されるということはあり得るでしょう。