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尖閣諸島の国有化に反対する人と、東京都に購入費を寄付した人の権利は
2012年10月10日 15時27分

日本政府による尖閣諸島の国有化に反対し、中国各地でデモの発生、および中国と台湾の漁船や巡視船による日本領海内への侵入が続いているが、日本国内でも一部に尖閣諸島の国有化について反対する立場の人がいるようだ。

反対の理由としては、「日中関係が悪化する」というものの他、尖閣諸島の購入費は今年度予算の予備費から支出されるため、「税金をそのようなことに使うべきではない」「約20億円という購入費は高すぎるのではないか」といった意見が挙げられている。ちなみに読売新聞社が7月に公表した全国世論調査の結果では、政府による尖閣諸島国有化に対する賛否は「賛成」が65%、「反対」は20%であった。

9月11日時点で尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島の3島は、日本国への所有権移転登記が完了しており、現在もなお国有化に反対し続けている日本人が国内にどの程度いるのかは不明だが、はたして反対する立場の人には政府に購入の取消しを求める権利があるのか。尾崎博彦弁護士に聞いた。

●反対する人の権利が侵害されたわけではなく、訴えの利益は認められない?

「購入の取消を求めるとすれば、反対する立場の方が国に対して裁判所に訴えを提起することが考えられますが、裁判所は、土地購入の是非を判断するまでもなく、訴えを不適法として却下すると思われます。」

「そもそも、裁判所に訴え(訴訟)を提起できるのは、訴えの利益を有する必要があります。具体的には、個人の権利や利益が国から侵害された場合にその救済を求めるといった内容でないと、国に対する訴訟に関しては訴えの利益は原則として(住民訴訟や選挙無効の訴訟などの法律上認められた場合を除いて)認められません。」

「尖閣諸島の土地の購入と言った問題については、これに反対する人の権利や利益を直接侵害しておらず、その人たちには訴えの利益を欠くと言わざるをえません。」

●東京都には寄付金の返還を要望する声が約100件寄せられた

なお、尖閣諸島の国有化は政府よりも先に東京都が名乗りを上げた経緯があり、東京都は購入費について寄付を募っていたが、結果的に政府が購入したことで、「都が購入しないなら寄付金を返してほしい」という要望が約100件寄せられていることが、東京都議会の定例会で明らかになった。

東京都の公式サイトには寄付金の使途について、「(~前略~)国がこの3島については購入しましたが、東京都としては、島々が有効に活用されるための施策に、お寄せいただいた寄附金をあてさせていただきます。」という説明文が記載されているが、このような場合、寄付をした人は法的に寄付金の返還を受けることができるのか。

●寄付金の使用目的は限定されておらず、返還を受けることは難しい?

尾崎弁護士によると、

「この場合、東京都の寄付金募集が、尖閣諸島の購入を条件とするものであったのかどうかがまず問題となります。」

「もしその様な内容の寄付金募集であれば、政府による購入により条件の成就が不能となったことから、東京都は寄付金の返還に応じなければならないでしょうが、寄付金の募集要項にはその様な記載は存在しないようですので、寄付金契約が条件付きとまでは言えないようです。」

「そうすると、次に寄付をした人が『東京都が購入すると誤信した』として寄付について錯誤無効(民法95条)を主張することが考えられます。しかしこの点についても、東京都は、寄付金の使用目的を購入に限定していた訳ではないことからすれば、『契約の要素(重大な部分)に錯誤はなかった』として、その主張は認められないと思われます。」

「以上の点からすれば、確かに多くの人が指摘するように、地権者と契約も締結していない段階で寄付を募ったことについて、石原知事に対する政治的批判は理解できますが、法的には寄付金の返還を受けることは困難ではないかと思われます。」

●今後の政府や東京都の動きを注視

なお尖閣諸島は沖縄県石垣市に属しているため、島の維持管理に東京都がどこまで介入できるかは不明だが、直近の報道によると、東京都は集まった寄付金を尖閣諸島の施設建設のための資金として政府に託す考えがあるようだ。

いずれにせよ、国有化に反対する人や東京都に寄付金の返還を要望する人は、現時点のところ法的に効力のある手段を講じることは難しく、今後の政府や東京都の方針に変化がない限り、事態の推移を注視するほかないといえるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

※本記事は情報サイト『Business Journal』との共同企画です。

日本政府による尖閣諸島の国有化に反対し、中国各地でデモの発生、および中国と台湾の漁船や巡視船による日本領海内への侵入が続いているが、日本国内でも一部に尖閣諸島の国有化について反対する立場の人がいるようだ。

反対の理由としては、「日中関係が悪化する」というものの他、尖閣諸島の購入費は今年度予算の予備費から支出されるため、「税金をそのようなことに使うべきではない」「約20億円という購入費は高すぎるのではないか」といった意見が挙げられている。ちなみに読売新聞社が7月に公表した全国世論調査の結果では、政府による尖閣諸島国有化に対する賛否は「賛成」が65%、「反対」は20%であった。

9月11日時点で尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島の3島は、日本国への所有権移転登記が完了しており、現在もなお国有化に反対し続けている日本人が国内にどの程度いるのかは不明だが、はたして反対する立場の人には政府に購入の取消しを求める権利があるのか。尾崎博彦弁護士に聞いた。

●反対する人の権利が侵害されたわけではなく、訴えの利益は認められない?

「購入の取消を求めるとすれば、反対する立場の方が国に対して裁判所に訴えを提起することが考えられますが、裁判所は、土地購入の是非を判断するまでもなく、訴えを不適法として却下すると思われます。」

「そもそも、裁判所に訴え(訴訟)を提起できるのは、訴えの利益を有する必要があります。具体的には、個人の権利や利益が国から侵害された場合にその救済を求めるといった内容でないと、国に対する訴訟に関しては訴えの利益は原則として(住民訴訟や選挙無効の訴訟などの法律上認められた場合を除いて)認められません。」

「尖閣諸島の土地の購入と言った問題については、これに反対する人の権利や利益を直接侵害しておらず、その人たちには訴えの利益を欠くと言わざるをえません。」

●東京都には寄付金の返還を要望する声が約100件寄せられた

なお、尖閣諸島の国有化は政府よりも先に東京都が名乗りを上げた経緯があり、東京都は購入費について寄付を募っていたが、結果的に政府が購入したことで、「都が購入しないなら寄付金を返してほしい」という要望が約100件寄せられていることが、東京都議会の定例会で明らかになった。

東京都の公式サイトには寄付金の使途について、「(~前略~)国がこの3島については購入しましたが、東京都としては、島々が有効に活用されるための施策に、お寄せいただいた寄附金をあてさせていただきます。」という説明文が記載されているが、このような場合、寄付をした人は法的に寄付金の返還を受けることができるのか。

●寄付金の使用目的は限定されておらず、返還を受けることは難しい?

尾崎弁護士によると、

「この場合、東京都の寄付金募集が、尖閣諸島の購入を条件とするものであったのかどうかがまず問題となります。」

「もしその様な内容の寄付金募集であれば、政府による購入により条件の成就が不能となったことから、東京都は寄付金の返還に応じなければならないでしょうが、寄付金の募集要項にはその様な記載は存在しないようですので、寄付金契約が条件付きとまでは言えないようです。」

「そうすると、次に寄付をした人が『東京都が購入すると誤信した』として寄付について錯誤無効(民法95条)を主張することが考えられます。しかしこの点についても、東京都は、寄付金の使用目的を購入に限定していた訳ではないことからすれば、『契約の要素(重大な部分)に錯誤はなかった』として、その主張は認められないと思われます。」

「以上の点からすれば、確かに多くの人が指摘するように、地権者と契約も締結していない段階で寄付を募ったことについて、石原知事に対する政治的批判は理解できますが、法的には寄付金の返還を受けることは困難ではないかと思われます。」

●今後の政府や東京都の動きを注視

なお尖閣諸島は沖縄県石垣市に属しているため、島の維持管理に東京都がどこまで介入できるかは不明だが、直近の報道によると、東京都は集まった寄付金を尖閣諸島の施設建設のための資金として政府に託す考えがあるようだ。

いずれにせよ、国有化に反対する人や東京都に寄付金の返還を要望する人は、現時点のところ法的に効力のある手段を講じることは難しく、今後の政府や東京都の方針に変化がない限り、事態の推移を注視するほかないといえるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

※本記事は情報サイト『Business Journal』との共同企画です。

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